ORCA CYCLING SCHOOL | 愛知県名古屋市のロードバイクスクール

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トレーニングの教科書

ロードバイクのクリートの位置に関する考察

post 2022.10.14
  last updated 2022.10.19

先日Twitterにて、クリート位置に関するアンケート調査を行わせていただきました。

192名の方に回答いただきましたが、その答えで最も多かったのが”後側(かかと寄り)“でした。ご回答いただきました皆様、ありがとうございました。

 

本日は、クリート位置についていくつか質問をいただくことがあったので、少しそれらについてまとめた記事を書いてみたいと思います。

 

クリートを取り付ける際の基本的な位置

筆者はクリートを取り付ける位置を、母指球小指球の間に、ペダルの車軸が収まるようにすることを推奨しています。

 

The Effect of Cleat Position on Running Using Acceleration-Derived Data in the Context of Triathlons という論文内に記載されていた Bikefit.com から引用された図解を引用させていただきます。

An external file that holds a picture, illustration, etc. Object name is sensors-21-05899-g001.jpg

The Effect of Cleat Position on Running Using Acceleration-Derived Data in the Context of Triathlons

 

筆者は1st(母指球) – 5th(小指球) の並行に引かれた点線の範囲内に収まるようにクリートを調整しますが、平行線の中心部分またはそれ以内の範囲をニュートラルとしています。これは足の形状により異なりますので、各自で確認しておきましょう。

ロードバイクのシューズの選び方について

 

本記事は
1stまたはそれよりもつま先側を前側
5thまたはそれよりもカカト寄りを後側

とした定義した上で記事を書かせていただきます。

 

クリート位置に正解はあるのか

速く走るためには、あるいは疲れにくいように走るためには、どの位置が正しいのか(最も良いのか)と聞かれることがありますが、基本的にクリート位置にこれが正解ですと名言できる場所はないと考えています。

 

使用するフレームのジオメトリーやクランク長といった機材的因子に、乗り手の身体的特徴と柔軟性・筋力といった身体的因子と掛け合わせると最適な位置となり得る場所は無数に存在すると考えられるため、その都度合わせていく必要があると考えられます。
※ そのほかにも環境因子(地形・風など)もあります。

 

ただし、膝が痛いという症状を改善したい場合は、痛みを出ないようにペダリングを行えるようにする位置に調整することが正解となるため、一部では適切な答えを出すことができます。とはいえ、これも消去法的な考えに基づくケースが多いので、100%この位置がいいというわけでもありません。

ロードバイクで膝を痛める3つの原因

 

そのため、自身にとって最適なクリート位置は変わるものだと考えておきましょう。

 

クリート位置の違いにおける変化とは

クリート位置を変えてペダルを漕ぐと、使用される筋肉の割合が変化すると考えられています。

 

一般的に認識されている感覚でいえば、クリートを前側にセットした状態では大腿四頭筋が、後側にセットした状態では大臀筋やハムストリングといった筋肉がそれぞれ稼働しやすいと言われていますが、実際にそうなのかという筋電図を追った論文(クリート位置にフォーカスした筋電図)を見かけないので、なんとも言えません。
※ ペダリング単体を追った筋電図の論文はあります(1)

 

ただ、ペダル上での足の位置が異なることで膝関節の関節角度とトルクの入力に変化があると考えられます。最もわかりやすい状態として、サドルの前後・上下を変えないままクリート位置を調節した時、クランクの3時位置を意識してみましょう。

 

クリートが前側に移動すれば、ペダル上で足の位置が後方に移動するため、膝関節が少し曲がる状態になり、踏み脚で膝関節を使うトルクが少し増えます。そのため、大腿四頭筋の可動が増えると考えられます。
スクワットで例えると、膝がつま先よりも前に出る状態

 

反対に、クリートが後方に移動すれば、ペダル上で足の位置が前方に移動するため、膝関節が少し伸びる状態になり、踏み脚で股関節を使うトルクが少し増えます。そのため、大臀筋やハムストリングの可動が増えると考えられます。
スクワットで例えると、膝がつま先よりも前に出ない状態

 

このことから、クリートを前方位置に出しすぎると膝を痛めるのではないかと示唆されている論文(2)もありますが、このあたりはサドルの前後・上下位置を調整することで解消させることもあるため大きく考える必要はないと考えられます。

 

そのほかにも、運動生理学的にパワーや耐乳酸生作業閾値が向上に変化はあるのかと考える方もいるかもしれませんが、特に大きな変化があるというわけではありませんでした(3)。

 

クリート位置とペダリング

ここまで書くと、クリート位置の変化に何か意味があるのか?と考えるかもしれませんが、クリート位置はロードバイクを楽しむ上で重要なスキルの一つであるペダリングに関係しています。

 

冒頭でも述べたように、痛みが出ないことを前提とした上で最も速くロードバイクを漕ぐために、上死点の通過のしやすさ、下死点の過剰な踏み込みの抑制、踏み足を邪魔しない引き足といった自身にとって最適なペダリングを考え、クリート位置を試行錯誤する必要があります

ロードバイクのペダリングと必要な筋トレ

 

また、クリート位置の変化に伴い使用される筋群の説明をしましたが、自身の体の動かし方次第で、前側でも大臀筋やハムストリングを使うことができますし、後側でも大腿四頭筋を使うことができます。

 

自身でボディコントロールできるようになるためにも、あえてクリート位置を変えて使う筋肉を意識したり、ペダル(クランク)を回す新たなる感覚を引き出してからクリート位置をまた変えるなどというように試行錯誤することで、自身にとって理想的なペダリングを見つけることができるでしょう。

 

自身にとって最適なクリート位置は変わるものとお伝えしました。理想的なクランク位置を探すことは、プロアマ問わず終わりのない長い旅路になりますが、以上を参考に試行錯誤しながら発見することを楽しんでみるのもいいのではないでしょうか。

 

とはいえ、もし現状の自分にとって最適なクリート位置がわからなくなったら、一旦ニュートラル位置に戻しましょう。
※ 本当に迷子になったら、あるいはなりそうになったら、お近くのフィッターを頼るといいと思います(ちなみに筆者もフィッティングしていますのでお気軽にどうぞ)。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

【参考資料】

  1. Electromyographic analysis of pedaling: a review

  2. Acute effects of small changes in antero-posterior shoe-cleat position on physiological and biomechanical variables in road cycling
  3. Effects of shoe cleat position on physiology and performance of competitive cyclists

 

【この記事を書いた人】

伊藤透

【保有資格 】
NSCA-CPT (LEVEL1)
健康運動指導士
日本スポーツ協会公認自転車競技コーチ3

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