こちらのブログでは、ロードバイクのトレーニングについて解説しています。
パワートレーニングについて勉強中です。
FTPについて教えてください。
以上のような、FTPに関する基本的な質問にお答えします。
✔︎ この記事の内容
・ FTPの概念とは
・ FTPの算出方法
・ 現在のFTPの考え方と新しく生まれた概念
FTPの概念
FTP は Functional Threshold Power の略語であり、1時間発揮し続けられる最大出力(有酸素代謝で発揮し続けられる最大出力)として、定義されていました。
しかし、今ではその定義は曖昧ではないかと示唆されることが多くなり、実際にFTPで1時間も走行し続けることができないサイクリストが多数いることから、たびたび疑問視されることがありました。
そのため、近年では時間帯強度で考えるのではなく、血中乳酸値の関係性(変動)に注目し、生理学的観点から 血中乳酸値が4.0mmol/ℓを基準に発揮される出力 (乳酸最大定常値 – MLSS : MaximalLactate Steady Stat ) として考えられることが増えてきました。
✔︎ 乳酸最大定常値 とは
ざっくり説明すると、血中乳酸値がほとんど上下することなく動き続けられる運動強度を表します。
基本的に、血中乳酸値が4.0mmol/ℓを超えると急激に乳酸の生成量が増加するとされていますが、世界トップクラスになると4.0mmol/ℓを超えても動き続けられる選手もいるので、多少の個別生があります。
しかし、最近もまた FTP = LT というわけでもないのではと一部疑問視されることが増えているため、まだまだ研究余地があると考えられています(Jeffries O,2021)が、本記事では FTP = 乳酸最大定常値とした強度(MLSS) とした上で、FTPについて深く掘り下げていきたいと思います。
FTPの算出方法
FTPを算出する方法は、大きく分けて2つの方法があります。
既にご存知の方も多いと思いますが、改めて確認してみましょう。
⚫︎ 20min Test
最も多くの方に実施されている方法として、20分間の全力走行をおこなった数値を参考に、FTPを計算する方法があります。
過去には、5分間全力で走行した後に計測した20分間の全力走行を基準としていましたが、今は最初の5分間を抜いた状態での20分間の最大出力を基準とすることが多くなっています。
計算方法は、以下のようになります。
【 20min Test 】
⚫︎ FTP = 20min 最大平均パワー × 0.95
20分間の全力走を実施し、その最大平均出力に0.95という係数を掛け合わせる。
>> 具体的な方法についてはこちら ( Training Peaks )
⚫︎ Ramp Test
20分間テストと同等に多く実施されている方法として、分単位で漸進的に強度を上げて力尽きた強度を参考に、FTPを計測する方法もあります。
この方法は、スタート時の運動強度や上昇するまでの時間、上昇する強度が提唱者によって異なりますが、最近では Zwift を活用される方が多いことから、100ワットから1分経過ごとに20ワット負荷を上げていくという方法が最も多く活用されているのではないかと思われます。
計算方法は、以下のようになります。
【 Ramp Test 】
⚫︎ FTP = n段階目の 1min 最大平均パワー × 0.75
100ワットから1分経過ごとに20ワットずつ負荷を上昇させていき、最終的に足を止めてしまったn段階目の1分間の出力を基準に、0.75という係数を掛け合わせる。
>> 具体的な方法についてはこちら ( Zwift )
TTE の概念
今までFTPは1時間発揮し続けられる最大出力とされていましたが、現在ではその強度を1時間発揮し続けるのは非常に難しいと考えられています。
そこで、数年前からWKOから TTE ( Time To Exhaustion ) という概念が誕生しました。これは、FTP強度で走り続けることができる時間を表す指標です。
現在では、TTEを参考にタイムトライアルやロードレースにおけるチーム戦術を考えられることもあるため、自身のパフォーマンスを発揮するための注目すべき1つの指標となっています。
FTP と TTE の関係性
現在、TTEについてもFTPと同様に研究されている最中ですが、各個人のフィットネスレベルによってFTPの持続時間(TTE)が異なるため、数値的な相関性を表すことはできていません。
そのため、FTPとTTEがどのような関係にあるのか・どれくらいの持続時間であることが普通なのかと疑問に持たれる方もいると思います。
そこで、このFTPとTTEに関して調査した論文がありますので、紹介をしたいと思います。
論文紹介
プロトコル
フィットネスレベルの異なる87名のサイクリストが被験者として参加。
被験者はVo2maxを基準にグループ分けされた上で、プロトコルをおこないました。
【実験内容】
⚫︎ DAY1:20分間テストにてFTPを算出した ( 20min MMP × 0.95 )
⚫︎ DAY2:72時間の休息を挟み、その強度で疲労困憊状態になるまで漕ぎ続ける
※ Tacx NEO 2T Smart を活用し、室内で行われた
結果
実際にプロトコルを遂行した結果、以下のようなデータを採ることができました。
【実験結果】
1 ) TTEは1時間以内に抑えられることが多い。
2 ) フィットネスレベルに応じて TTE が異なる。
3 ) フィットネスレベルの高さに応じて TTE が長くなる。
4 ) FTP = 1時間発揮し続けられる出力ではない。
考察
フィットネスレベルの向上に合わせてTTEが伸びるということが判明した本テストですが、これらは乳酸処理能力の高さといった生理学的因子が要因になっているだけでなく、キツくなってきても我慢して追い込み続けることができるという心理的因子も重なっているのではないだろうかと感じています。
そのため、このTTEはフィットネスレベルと並行して、トレーニングの熟練度が高くなれば伸びていく可能性があると感じています。
TTEの算出方法
STRAVAやGarmin Connect などにデータを落とし込んだ際、FTPのように自動的にTTEを把握することはできません(2022年10月現在)。
そのため、TTEを知りたい場合は、本記事で紹介した論文のように20分間強度をもとに算出されたFTP強度で走り続けてみるのもいいでしょう。
しかし、現在ではTraining Peaks と互換性のあるデータ解析ソフト 『WKO5』 を活用することで随時知ることができます。
その際に、自身のTTEを測定するテスト 兼 TTEを向上させるためのワークアウトがありますので、興味のある方は以下の方法を参考に実施してみましょう。
Baseline Test, 35-45 minutes or TTE
1. 10 minutes at 92-95 percent of target FTP
10分ターゲット FTPの92-95%で走行する。
2. Increase to 100 percent of target FTP for 15 minutes
続けるように、 15分ターゲット FTPの100%で走行する。
3. 10-15 minutes gradual power increase until exhaustion
10-15分、疲労困憊に至るまで緩やかに強度を上げていく
参照 : The Physiology of FTP and New FTP Test Protocols
本記事のまとめ
FTPという指標が考えられて10年以上が経過した今でも、FTPとは何かと研究され続けています。
それだけ、ロードレースという競技におけるヒトの進化の過程に必要とされているのだと、調べれば調べるほどに感じられます。
過去に考えられていた 1時間発揮し続けられる出力という概念は覆り、今は生理学的指標に基づきながらその意味が徐々に明確化されてきていますが、本記事で定義したFTPの概念であるMLSSと同意義で考えていいのかと更なる研究が進んでいます。
また何かあれば、その答え(定義)は変わるかもしれません。
しかし、現段階で判明しているFTPの定義とそれにまつわるTTEという概念を理解することで、自身のパフォーマンスを最大限引き出すことができると考えられます。
それを十分に理解した上で、自身にとって適切なトレーニングをおこなえていない場合、結果を残すことができない可能性があります。
1時間前後のヒルクライムや、オリンピック以上の距離を走行するトライアスロンのバイクパートで結果を残したいと考えた場合、単純にFTPを上げるだけではなく、その持続時間であるTTEを伸ばすことにも着目したトレーニングを組まなければ、タイムを縮めることができない(結果を残せない)可能性があります。
パフォーマンスに伸び悩んだ時に、本記事を参考にFTPとTTEの意味を理解し、自身のトレーニングにつなげていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。