指導をしているとさまざまな選手に出会うが、時々小さい頃から自転車競技のみを続けている選手よりも、もともと他のスポーツを行なっていた選手のほうが速く、上手く乗りこなすシーンを見かけることがある。
これはおそらく、基礎的な行動体力の機能が高いからという理由があるだろう。
このように、どんどん他スポーツから転向していくるジュニア選手に、もともと自転車競技しかしてこなかった選手が抜かれる現象は、指導者としても見ていて切ないものがある。
行動体力の機能以前に、年齢における骨格の成長速度なども大きく影響しているが、やはり元々の運動機能(世間が言う運動神経というやつ)の高さの影響が一番大きいような気がする。
じゃあそうならないためにはどうすれば良いのかと考えたときに、持久力と平衡性以外の行動体力の機能(筋力・瞬発力・敏捷性など)を高める運動やトレーニングを同時におこなうことが望ましいと考えるので、ジュニア選手たちには『外でたくさん遊んだほうがいいよ』と伝える。特に中学生以下。
また、遊ぶだけでなくストレングス&コンディショニング(いわゆる筋トレ)をすることも、効率的かつ効果的だとも伝えている。(成長中の子供に筋トレをさせると身長が伸びなくなると言われる人も多いが、指導していて実際そうでもないな、と感じる)。
こんな話をすると、小さい頃から自転車競技をおこなうことにメリットはないのか?と聞かれることがある。
日本国内トップの卓球選手が、小さい頃から泣きながらご家族と特訓している映像を見たことがある人もいるだろう。また、同様にサッカーや野球、体操などでも同様に幼少期からそのスポーツを一筋で頑張り続けている選手がプロになっているシーンを見たことがある人もいるだろう。
それらは小さい頃からやることで、その競技特異的なスキルや感覚を身につけることができるため、後から始めた選手よりも優位に働くことが多い。
じゃあ自転車競技の場合は?
小さい頃から自転車競技をおこなうメリットは何かと考えた時、個人的に指導している中で2つある。
1つはバイクコントロールだ。
このバイクを上手く操作する能力というのは、幼少期の頃に乗り込んで得られる独特の感覚があると思う。特にオフロードやBMXをメインに行っている選手はそういう傾向がある。主にダウンヒルを中心にバイクをカラダの1部のように扱う感覚は、大人になって身につくものではない。恐怖心でブレーキが掛かってしまい攻めることができないから、バイクコントロールの上限ギリギリを引き出すことができない。
ヒトが本来ブレーキをかけることで、アクセルを踏み続けることができるのは、恐怖を自覚する前の子供だけだと思う(大人になっても無謀な挑戦をする人がいるけど、それは本当にただの無謀で落車して骨折することがある)。そのときに攻めて得た感覚が、バイクコントロールという武器になる。
もう1つは、回転力だ。
ジュニアの頃から公式戦に参加する場合は、ギア比の制限がかかる。その制限の中で速度を出すためには、回転させ続けなくてはいけない。その回転力で速度を上げる・維持し続けるという能力は、幼少期のころから続けている選手に備わる能力で、大人から始めた選手たちでは到底得ることができない能力であると考えている。
しかし、ジュニア時代にギア比を解放した状態で練習していたり、解放されたときにトルクをかけることにこだわりすぎると、それは失われる。だから学年を上げてギア比が徐々に解放されていく中でも、3本ローラーなどを活用しながら回転させ続ける練習はおこなった方がいい。
こうしたメリットがあることを理解した上で、そのメリットを活かすために必要となる行動体力の機能を高めることで、後に大きく成長していけると思う。
本当に好きなら、負けたくないなら、自分が嫌い・苦手としている分野にも向き合って、真摯に継続して取り組もう。